年の瀬が近づく頃、無性に食べたくなるものがある。
いそいそと行きつけのメキシコ料理屋に寄り、
お目当てのものを持ち帰ってきた。
中南米料理「Tamal(タマール)」
とうもろこしの粉を長時間練り、サルサや肉などを入れ、
バナナの葉で包み蒸したもので、
中南米のクリスマスで特別に食べる料理と言われている。
葉を開けるとフワッととうもろこしの香りがして
なんとも食欲をそそる。
私達がタマールを食べたのは、旅一年目。
中米一美しいと言われている
グアテマラのアティトラン湖のほとりにある小さな町
「サンペドロ・ラ・ラグーナ」へ
長期でスペイン語を勉強しに訪れた時だった。
住んでいるのは、マヤの末裔の人たちで、浅黒い肌に大きな瞳。
女の人は長い髪をおさげに結い、
民族の刺繍の入ったロングスカートをはいている。
湖で洗濯したり、焚き火で料理を作ったりしている牧歌的な田舎町で
とても居心地がいい。
主宗教がカトリックのグアテマラではクリスマスは一大イベント。
この町も例外ではなく、
いつもはのんびりしている町も人もどことなく浮き足立っている。
クリスマスイブまでの9日間
「Posada(ポサダ) 」と呼ばれるイベントがある。
毎日ホセとマリアの人形を乗せたお神輿を、
仮装をした子供たちが笛をピーピー鳴らし、
クリスマスソングを歌い街を歩いていく姿を見ることができる。
狭い路地なんか人でいっぱい。
この行事は、ホセとマリアが
キリストを産む場所を探して旅したことを再現しているそうで、
彷徨うように毎晩お神輿を置く家が変わっていく。
ちょうどスペイン語の先生の家が一晩担当する日があったので
夜行ってみると、
昼間のように町中の人たちが先生の家の前に集まっていた。
どうやら担当の家の人は、町中の人たちに
パンとあの「タマール」を無料で振る舞うらしいので、
その順番待ちをしていたようだ。
タマールはクリスマスのターキーのような存在なので
皆キャーキャー喜んでもらっていく。
先生は「お神輿を預かる年はお金が出てくから大変よー!」と、
大きな目をさらに大きく開いて困っていたが、
きらきらに飾られた部屋で家族が集まり、
町のひとたち皆で歌を歌い、
聖書を朗読したりとなんとも楽しい時間が流れている。
大変と言っていた先生も終始笑顔でやっぱり楽しそうだった。
この時のタマールは、日本で食べたものと比べてすごくシンプル。
全体が真っ白でゼリーのようにプルプル柔らかい。
それを指でむしりながら豪快に食べるのがサンペドロ流。
肉もスパイスもほぼ入っておらず淡白な味だが、
とても美味しくほっこり心あたたまる印象が残っている。
クリスマス当日。
夜になるとたくさんの街の人々が教会へと繰り出していく。
ミサが行われ、色とりどりの民族衣装を着た女性たちが
熱心に祈りを捧げる姿は、
前日までのパーティとは違い、厳かな雰囲気。
なんだか神聖で、心地よい空間を私たちはずっと見つめていた。
サンペドロのクリスマスが他の中南米の地域と違う大きな点は、
この民族衣装をまとっていることだと思う。
土着の宗教と新しく入ったキリスト教が混じり合い、
新しい文化、生き方を作り出しているのがこの行事でわかり、
歴史を感じることができる貴重な体験だった。
まだ旅始まって間もない頃。
同じクリスマスでもこんなに違う習慣があるんだと強い衝撃を受け、
心からワクワクし感動したのを思い出す。
そして、そんな体験をすればするほど
旅がどんどん好きになって行った。
知らないことを経験することは自分の力になる。
まだまだマヤのクリスマスのように未知なる世界はたくさんある。
旅を続けて世界を見にいくぞと強く心に決めながら、
残りのタマールを全部平らげたのだった。
BS朝日「旅する鈴木-夫婦で世界一周」
番組詳細はこちら
https://www.bs-asahi.co.jp/traveling_suzuki/
文中の東京都港区にあるメキシコ料理屋「サルシータ」
豚肉のタマーレス 500円(持ち帰り可)
http://salsita-tokyo.com/