vol.35 2020/3/13
雪の北海道へ撮影の旅

旅する鈴木

青白い雪の野原の真ん中で、
一本の大きな木の影がぼやっと浮かび上がる。
ここは北海道のほぼ中央にある美瑛町。
十勝連峰の裾野から、なだらかに丘が広がり
美しい自然景観が魅力な場所です。
夏は黄や緑や赤など色とりどりのカラフルな田園風景が、
冬になると洗い立てのシーツをかぶせたように
一面真っ白い雪化粧に変わる。
その景色を見るため私たちは愛車に乗り、茨城県の大洗からフェリーで約18時間かけて北海道までやってきた。
車は運転の得意なダンナにお任せし、私は初めての北海道に餌を探す鳥のように周りをキョロキョロ見回しては、
たまに酔いそうにになりながらも雪の旅の始まりに心はずませていた。

雪景色

2019年、その年は雪不足と言っていたが、
本土から来た私たちにとっては十分過ぎる積雪だった。
足がすっかりハマるほどのふかい雪が地面を隠し、
空は冷たくぼやぼやした太陽が雪を照らします。
森を見ると、木の枝は沢山の雪を抱えて重そうに体を曲げている。
観光客も多い。大きなバスが幾度となくすれ違う。

一面の雪!

セブンスターの木、青い湖などいくつものスポットをサクサク巡り、
小腹が空けば居酒屋に入り北海道名物を堪能する。
カレーうどん、ジャガイモ、とうもろこし、
ラーメン、口にするものとにかく美味しい。
特にお米とざんぎ(北海道版からあげ)は
口に入れた瞬間、体の細胞が目を覚ますほど美味しく
2人にとって忘れられない味になった。


冷たい雪と暖かいカレーうどん

私達がその木に着いたのは夜も更けてからでした。
ここでタイムラプス(何時間もかけて
同じ写真を撮り続ける手法)を撮ろうと、
20mほど離れたところにカメラを固定して私たちは車の中に待機。
エンジンをつけっぱなしだと雪で排気口が塞がれ
二酸化炭素中毒になるときいたので、
寒いがエンジンを切った。
もこもこのダウンとポットに入れた温かいコーヒーを飲みながら
のんびり時間を潰そうとしていた。

電車が雪を照らす

しかし、自然というのは望み通りはいかないものです。
風が出てきたと思いきやあっという間にゴウゴウと風が吹き荒れ、
もうどこが木だか丘だか雪煙だか分からなくなる。
車はギシギシ音を立ててユラユラ揺れる。
10m先も見えない軽いホワイトアウト。
「これは帰ったほうがいいね」と私が言うも
「天気予報ではあと数時間で晴れると出てるから、
もう少しやってみよう。カメラを見てくる」と言って、
マイナス20度の吹雪の中、
小さなヘッドライトひとつ持ってダンナは車を出て行った。
10分後ガタガタに震えて帰ってくるも、体を温めたらまた出て行く。
ダンナが限界になるとわたしが交代する。その繰り返し。

満点の星空!

二人してヘトヘトになった時、
その努力が天に通じたのか、それは突然訪れた。
「ああ!」と2人で叫んだ。突然嵐が収まってきたのだ。
風はやみ、野原も丘もホッとしたように穏やかになった。
空もいつかすっかりはれて、一面の星座が瞬いている。
雪は青白く光っている。
そこには嵐にも負けない木が凛として佇んでいた。
月の光で柔らかい影がそっと映し出されています。
時が止まった世界の主役が現れた。
この美しさは私たちは単なる観客に過ぎず、
ただただこの光景に魅入っていた。
自然の作り出す情景はなぜこんなに心に、体の細胞に染み渡るのか。
人間が自然の中から生まれたという名残だろうか。
これだけでも吹雪に耐え、見に来たかいはあったとお互い頷き合う。
じっくり景色を堪能し、撮影も終えた朝方私たちは満足げに宿に帰った。

光に包まれ煌く二人のリング


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